昭和天皇発言メモ『それが私の心だ

 A級戦犯が靖国神社に合祀されたことについて、昭和天皇が死去前年の1988年に『私は 或る時に A級が合祀され その上 松岡、白取までもが 筑波は慎重に対処してくれたと聞いたが 松平の子の今の宮司がどう考えたのか 易々と 松平は 平和に強い考えがあったと思うのに 親の心子知らずと思っている だから私あれ以来、参拝していない、それが私の心だ』と発言したメモを当時の富田朝彦宮内庁長官が残していた。

 また、徳川元侍従長は「筑波藤麿元宮司は慎重に保留していたが、松平永芳宮司に交代してすぐに合祀を決めた。こちらからは『軍人で死刑になった人はともかく、松岡洋右さんのように軍人でもなく、死刑にならなかった人も合祀するのはおかしいのじゃないか』と言ったが押し切られた。靖国神社は元来、国を安らかにするつもりで奮戦して亡くなった人を祭るはずなのであって、国を危うきに至らしめたとされた人も合祀するのでは、異論も出るでしょう」と朝日新聞記者に語っていた。(以上、2006年7月20日朝日新聞夕刊)

 同じく朝日新聞6面には、ジェラルド・カーティス米コロンビア大学教授の話として次のコメントが書かれている。昭和天皇が、靖国神社のA級戦犯の合祀に強い不快感を示していたことが明らかになったことの意味は大きい。靖国神社参拝問題が、外国にいわれて問題になったのではなく、もともと日本国内の政治問題であることが明らかになった。合祀は戦争を肯定する象徴的な意味がある。外国から見てもおかしいし、天皇から見てもおかしいということだ。天皇陛下も参拝しない靖国に総理大臣が行くべきだというのは矛盾している。戦中戦後を通じて天皇だった昭和天皇が「天皇陛下万歳」を叫んでなくなった兵士がまつられている靖国神社の参拝をやめるほど、A級戦犯合祀にこだわっていた。天皇の言葉を次の総理候補も真剣に考えて、靖国神社問題の新しい解決のあり方を考えるべきだ。

 米国は靖国問題で日中韓の仲がうまくいっていないことを米国の国益に反することと考えており、上記コメントも多かれ少なかれ、米国の国益の観点から述べている可能性は大きいが、言っている内容は本質を掴んでいる。

 天皇家は外国との付き合いもあり、国際人としての視点も持っており、我々庶民や政治家よりよっぽど平和主義者であろうと思われる。その基本的に平和主義者である昭和天皇と国民を戦争に引きずり込んだのが、軍部やメモに記されている松岡や白鳥ではないのか。昭和天皇の心の中には、日本を戦争に導いた許すことの出来ない人物の名が多数あったに違いない。たまたま、松岡と白鳥の個人名が出たのは、軍人でもなく死刑でもなかったからだろう。

 本件で解せないのは、国は政教分離の観点から靖国神社にA級戦犯の分祀を強制できないというが、旧厚生労働省が祭神名票と言うものを靖国神社に対して提出しているのはおかしいではないか。靖国神社としては誰を祭れば良いか分らないので国に要求したのかもしれないが、靖国神社と国がこういう事でグルになって動いている。実質的に政教一体ではないか。

 以前、自衛隊員が訓練中か何かに死亡して、靖国神社に祭られ、遺族がそれを拒否して裁判に訴えたことがあったように記憶している。何故、国は靖国神社に祭ろうとするのか? これも政教一体ではないか。

 私は靖国神社は国民を戦争に引きずり込む道具として使われたものなのでぶっ潰すべきであると考えている。それを未だに国が利用しようとする態度が許せない。靖国神社の歴史なんて高々百年ちょっとではないか。そんな薄っぺらな神社に何の意味がある。国が本当に国の為に戦って死んだ人を追悼したいなら追悼施設を作るべきである。それをしない政治家は靖国神社を利用して何かをたくらんでいるのではないか。それは英霊の冒涜である。許すことの出来ないことなのである。

 小泉の靖国参拝で日中韓の関係はガタガタになった。安部官房長官も小泉に習って訳の分からんことを言っている。北朝鮮がミサイルを飛ばした為に、国連安保理に制裁決議案を提出したまでは小泉も安部も強気で空元気を出していたが、早々と中国が拒否権発動を表明すると何も出来ない無力・無能な小泉と安部。本当に情けない。一方、アメリカは直ぐ中国、韓国に飛んで事態打開に動くすばやさ。額賀防衛庁長官や安部は一生懸命敵地攻撃論を唱えるが、中国、ロシアと打開策の打ち合わせも説得もせずに敵地攻撃論を唱えるのは、国際問題解決の手段として戦争を放棄した憲法の考え方に反するし、仮に平和憲法でなくてもアジアのリーダーであろうとするなら中国、ロシア、韓国との調整が出来なくて何なんだと言いたい。まあ、本当に日本がアジアのリーダーであろうとして動き始めれば、アメリカに潰される訳だけど。

 こんな事態になったのは、小泉の靖国参拝が第一の原因なのである。まあ、日本外交なんて未だに白人にペコペコ、黄色人種に優越感の前時代的な感覚で進めているので、靖国問題が無くても中国、ロシア、韓国との調整なんて無理かもしれないが。

 21日朝刊に1988年に別の側近は次のように語っていたという。「政治家から先の大戦を正当化する趣旨の発言があると、陛下は苦々しい様子で、英米の外交官らの名を挙げて『外国人ですら、私の気持ちをわかってくれているのに』と嘆いておられた」

 今回の昭和天皇発言について小泉首相は「これは心の問題ですから、陛下におかれても様々な思いがおありだったと思う」と言って、全く反省の色も無い。昭和天皇も自分の気持ちを理解しない総理大臣の存在にさぞ、嘆いておられるであろう。因みに私は天皇は民間に下っていただいた方が良いと考えているのであるが、少しでも象徴天皇制を支持しているのであれば、天皇の考えを理解しようと努力するのが、国民の務めではないのか。勝手な時だけ天皇を担ぎ上げてその威を借り、利用するのは許されないことである。

(2006年7月22日記)

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